評論

不変の真理と書。
伸びやかな墨の線は文字表現を超える。

エコール・デ・ルーヴル(ルーブル美術学院)教授/美術評論家
エリック・モンサンジョン

 紅秋氏が表現しようとするのは、目に見える外界ではありません。彼女は世界を「見せる」のではなく「読ませる」のです。彼女の書は心理的な取り組みであり、観るものを別の時空へと送りこみます。書と絵画の合間を漂う記号は独自の意味を持ち、唯一無二の言語を構成します。

 作者にとってそれは、内面に存在する現実であり、独自の構文や文法、理論がしかと存在する心理の言語です。崇高な精神世界を創造する紅秋氏。彼女の書はやがて生命の真理に行き着くのです。

 彼女の内側から放たれるエネルギーは魂の道しるべとなり、観る者は純粋な美を楽しむと同時に、まるで祭壇を眺める時のような神聖な気持ちでも作品を堪能する事ができます。その筆跡の美しさとは、淡く濃く幾重にもなるグラデーションから生まれた複雑な墨色のニュアンスによるものです。

 作品の骨格は主に二種類の所作から成り立っていますが、一つは紙から筆を離すことなく一気に書き上げるもの、もう一つは句読点を断続的に打つものです。途切れたり不意にまた再開したりと、一つの動作からまた別の動作へ次々に変わる筆捌き。その二つが絡み合う事で作品には、心臓が脈打つかの如く視覚的な躍動感がもたらされます。これらの書を「視覚で愛でる麗しい俳句」と表現しても過言ではないでしょう。

 紅秋氏の、画仙紙の上を滑る筆捌きの一つ一つが、スピリチュアルな軌道を描いているように感じられます。無常と不変が行き交い調和する書。彼女が描くその完璧なフォルムと、心の奥底に秘められた思いは、相対する一対の弧を描く軌跡であり、そして旅なのです。

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